東京渋谷で29年続くボイトレ教室

Q 2.11 横隔膜で歌う方法が分かりません

横隔膜で歌を支えろと言う人は多いです。でも具体的に横隔膜をどう使って歌うのか、説明する人はほとんどいません。

横隔膜は歌い方にどう関わるのか

横隔膜は基本的に呼吸で使う筋肉です。普通に生活している限り、その活動はあまり感知されません。横隔膜で歌う方法について調べるなら、まずその活動と存在を確認しましょう。

みぞおちに手を当てて軽く咳をして下さい。体の中で何か動くのが分かります。そのまま笑って下さい。やはり動きますね。身体の中で横隔膜が揺れているのが伝わって来ます。

これらは平凡なボイストレーニング教室で行うような簡易チェックです。大した意味はありません。歌う時の横隔膜の動きで大切な事は、順を追って説明していきます。

では次に、図で横隔膜を確認してみましょう。

肺と横隔膜

横隔膜の上の空間が胸腔。そこに心臓と肺という循環器系の内臓があります。

横隔膜の下の空間が腹腔。胃や腸をはじめ消化器系の内臓があります。

胴体内部を水平に切り、胸腔と腹腔をてているため横隔膜と呼ばれます。

横隔膜は薄い膜ではなく筋肉です。少し上に盛り上がったドーム状の形をしていて、肺の底面に癒着しています。

腹式呼吸と横隔膜

息を吸う時、横隔膜のドームは下に降りて来ます。横隔膜の周辺部は肋骨に癒着しているので横隔膜そのものは下がりません。

「腹式呼吸では肺が下に広がります。肺の底の横隔膜が降りて、下にある胃や腸などの臓器を外に押し出すのでお腹がふくらみます。それが腹式呼吸の正体です」という説明が一般的です。なので腹式呼吸イコール横隔膜呼吸と解釈する人も多いです。

この説明を聞くと多くの人はなるほど!と納得します。

腹式呼吸の謎は解けた。これで上手く歌える!

となれば簡単ですが・・・。

肺や横隔膜が分かれば上手く歌えるか

横隔膜の場所や動きが分かって、上手く歌えた人は見た事がありません。横隔膜を意識して、怒鳴るような大声や緊張した高い声を出している人は、ボイトレ動画などでよく見ます。

多くの人はそれが(横隔膜を意識して歌う事が)正しいと思い込んでいますが、全然楽に歌えているようには見えません。

横隔膜を鍛えるとどうなるか

図や説明で横隔膜を知る以前、あなたは横隔膜を使った事が無かったでしょうか?

いいえ。それを知っても知らなくても、あなたの呼吸はずっと横隔膜を中心に行われて来ました。それが人間の生理なのです。

歌が上手くいかない理由や、改善のコツを横隔膜に求めてはいけません。ハッキリ言いましょう。横隔膜を鍛えてはいけません。あなたが歌うのに必要な要素は沢山あります。横隔膜はその中の一つに過ぎません。

それらの要素はバランス良く練習し、足並み揃えて発展させないと前に進みません。2人3脚の延長。10人11脚です。誰か一人だけが突っ走ればその場で全員倒れてしまいます。

ボイストレーニングで自然にパワーアップ

あなたに一番足りない要素を見つけ、そこを強化するのがボイストレーニングです。しかし99%以上の確率で、あなたに一番足りないのは横隔膜の強さではありません。

万が一、あなたの横隔膜が力不足な状態であっても心配不要です。

正しいボイストレーニングでは自然と横隔膜が使われます。意識しなくても鍛えられます。そして、意識しない方が強く歌を支えてくれます。

咳をしたり、笑って確認した動きは、それを手掛かりに追究したり発展させない事です。

声を支えるのは横隔膜ではないの?

一流歌手たちの、あのパワフルな声はどこで支えているのか?横隔膜なのか?それとも別の要素なのか?

2つだけヒントを差し上げます。

先ほど、腹式呼吸イコール横隔膜呼吸と解釈する人が多いと言いました。その解釈は間違いです。

横隔膜の本当の姿が分かれば、胸腔で呼吸を感じる重要性が分かります。本当の腹式呼吸のページで、胸式呼吸と腹式呼吸のミックスについて説明しております。これをご確認下さい。多くの皆さんが忘れているパズルのピース。それが胸式呼吸(腹式ではありません)です。

そして、声を支えるもう1つの重要なピース。それが声帯です。

声を支える主役は圧縮に関わる3つの筋肉

声の支えとは、つまり音圧です。

音圧を出すためには吐く息を圧縮します。圧縮には2つの筋肉を主に使います。腹式呼吸の主役である横隔膜と、胸式呼吸の主役である肋間筋(肋骨の隙間の筋肉)です。

この2つの呼吸筋のバランスを整えると、リラックスしたまま充分な強さで息が吐けます。横隔膜だけの圧縮では得られない快適さです。

もう1つ圧縮をサポートする筋肉があります。それが声帯です(声帯の大部分は筋肉)。

声帯は気管の一番上にあります。息の唯一の出口なので、声帯を閉じると、そこには圧縮された息の全圧力が掛かります。声帯が発達すると、その閉じ具合で息の圧縮率を変える事が出来ます。その調整力は最終的に強靭な耐久力も兼ね備えます。

ヒントの1つ目は、腹式呼吸と胸式呼吸の併用で快適にしっかり吐ける弾力。

2つ目は、その息を受け止める声帯の順応性。これら2つが大多数の人に最も足りない要素です。

ここをトレーニングして手に入るのが、高くて通る声。美しく支えられたバワフルな声です。

では歌い方はどのように発達させれば良いのか

声が答えを知っています。声に訊いてみて下さい。

もっと正確に言うと、あなたが歌が大好きなら、歌い方はあなたの中に(ハートに、心に)インプットされています。

歌が大好きなら、上手なプロ歌手の歌い方が、あなたの耳に残っているはずです。声に準備があれば大好きな歌手の歌い方の影響が、あなたの歌い方に自然と現れます。

歌マネは最終目標ではありませんが、上手い歌手の歌マネはあなたを大きく発展させてくれます。ボイトレが進み、あなたが自分の声帯を駆使して歌えるようになれば、あなたは充分に個性的になります。

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